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東京高等裁判所 昭和33年(ネ)2031号 判決 1959年10月22日

日本相互銀行

事実

被控訴人(一審原告、勝訴)鈴木よねは昭和二十九年五月二十九日控訴人渡部長三郎に対し金十五万円を、利息月四分、期間を同日から三カ月として貸与したが、控訴人は期限を経過するも右元利金の支払をしない。よつて被控訴人は控訴人に対し右元金十五万円とこれに対する約定利息のうち年二割の割合による損害金の支払いを求める、と主張した。

控訴人渡部長三郎は被控訴人主張の事実を否認し、さらに、控訴人は昭和二十九年五月から同年八月まで、西村金融株式会社の外務員として預金契約者の募集と集金等の仕事を担当していたところ、同年五月下旬被控訴人が控訴人に対し、差し当り必要のない金十五万円をもつているが、これを有利な利殖に向けたいといつたので、控訴人は、西村金融株式会社に、三カ月の定期として預ければ、利息月四分がつき、その利息は前払いになるから、かなり有利な利廻りとなると話した。その結果控訴人は被控訴人から金十五万円を預つたが、それは被控訴人が西村金融株式会社に対する定期預金である。それから数日後控訴人は右会社が発行した定期預金証書と利息三カ月分を被控訴人に交付したのである、と主張した。

理由

証拠を綜合すれば、控訴人はもと訴外日本相互銀行の外務員として集金等のため被控訴人宅に出入し、昭和二十九年五月頃は訴外西村金融株式会社の外務員にかわつていたが、なお控訴人宅に立ち寄ることがあり、そんな関係で被控訴人が物置の改造資金を求めていること及び被控訴人が訴外日本相互銀行から金融を受けられる状態にあることを知り、いろいろと勧めた結果、同月下旬被控訴人からまかされて右銀行浅草支店と交渉の労をとり、被控訴人に代つて金五十万円を借り出して来たので、これを受け取つた被控訴人な内金二十万円を負債の返済に当てたが、前記改造が同年九月頃まで延びることになり、従つて改造費に予定した残金三十万円をそれまで(日本相互銀行に月一分の割合の利息を払いながら)遊ばせておく外はなくなつたところ、控訴人から自分に預ければ有利に廻し、右改造の時までには月四分の利息をつけ自分の責任をもつて返済するという申出を受け、これに応じて控訴人に右金三十万円を渡すに至つたもので、被控訴人は控訴人がこの金をどこに廻すかにさして留意せず、控訴人が責任をもつということを重く考えていた経緯が認められる。

ところで証拠によれば、控訴人が右金三十万円の内金十五万円を西村金融株式会社神田支店に定期預金として預け入れたこと、右支店から預金の証書、預金に対する社長名義の礼状が発せられ、預金に対する利息(株主優待金)も支払われていることは窺われるけれども、右礼状が被控訴人の手に届いたかどうかについては何らの立証がなく、預金の証書、利息を被控訴人に届けた旨並びに被控訴人自ら西村金融株式会社神田支店に出向いて利息(又は元金)の支払を請求した旨の証言並びに控訴人本人の供述は、被控訴人本人の供述に照らしてたやすく措信し難い。さらに、保険、無尽、定期積金等の外務員が出入先の印鑑を預つて一切の手続を取り運ぶ事例が世間に稀でないことを想起すれば、右に窺われる事実だけから、被控訴人が自らの意思によつて西村金融株式会社に右金十五万円を預け入れたものと速断することはできない。

してみると、控訴人は昭和二十九年五月下旬被控訴人に一カ月四分の割合の利息を附して同年九月頃までに弁済する旨の約定をして被控訴人から金三十万円を受け取つたと認めるほかはなく、従つてこの内金十五万円(残りの金十五万円は昭和二十九年八月末頃一カ月四分の割合による利息をそえて控訴人より被控訴人に返還済)及びこれに対する支払済まで、前記利息制限法の範囲まで引き下げた年一割八分の割合による金員の支払を求める被控訴人の本訴請求は正当であつてこれを認容した原審判決は相当であるから、本件控訴は理由がないとしてこれを棄却した。

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